FT-101ESの50W化

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以前からFT-101ESを真空管を追加せずに50W化しようと目論んでいました。ここで説明したように、TUNE/CW/AM送信用のキャリア発振回路が不調ですが、原因ははっきりしたので、その問題は放置して、いろいろ調べた挙句ついに50W化しました。

100W出力のFT-101Eは終段に6JS6Cを2本使って100W出しているわけですから、1本で50W出せるはずです。FT-101ESはそれをわざわざ10W出力に落としているわけで、もったいないのでは、というのがそもそもの50W化の動機です。だから(たとえば)100W改造キットを使って6JS6C2本で100W動作させることには興味ありませんでした。

1. 下準備(調査)

まず、50W化にあたって、FT-101ESの100Wへの改造の手順を理解する必要があります。オークションなどでときどき100W改造キットが出てきますが、その写真を見ると、追加部品は、
のようです。ただし、このキットは初代のFT-101S、第2世代のFT-101BS、そして最終型のFT-101ESに対応したものらしいので、FT-101ESを改造するためには不要な部品も混じっているかもしれません。


次に、手持ちの新・FT-101メンテナンスガイドを見ると50W化の手順はあまり詳しくありませんが、次のような記述があります。
この改造は6JS6Cを追加する100W改造から、6JS6Cの追加作業を省略する改造だ。つまり6JS6Cのプレート電圧は100Wと同じ600V、12BY7Aのスクリーングリッド配線変更も同様に200Vにする方法で、6JS6Cに最大能力を要求する改造なのだ。
一方、同書に100W化の手順は、概ね以下の通りと書かれています。
  1. 真空管(6JS6C)の追加にともなうホーロー抵抗とソケットの交換
  2. 真空管まわりの配線変更
  3. 6JS6Cのバイアス電源変更(REG UNIT)
  4. ドライバの真空管(12BY7A)のスクリーングリッド電圧の変更一式
  5. トランスのタップ変更一式
  6. 中和、トラッキングの再調整
さて、「50W化は100W化の改造手順から6JS6Cの追加作業を省略する」といっても、どれを省略してどれをやらなければいけないのか、判然としません。

そこで、次にFT-101E/ESの取説に書かれているFT-101ESとFT-101Eの相違点、というページをよく眺めてみます。これによると、FT-101ESとFT-101Eの違いは次の点です。
以上の情報から、100W改造キットの中身を想像してみると、コンデンサー4個は、追加用6JS6Cのパスコン(C21(0.01u)、C22(0.0047u)、C72(0.0047u))まではわかりましたがあと1つのディップマイカはわかりません。抵抗1個は100ΩのR14と思われます。

さて、以上より50W化の改造は次の点を変更すればいいと考えました。
ところが、この3点の変更点のうち最後の12BY7Aのスクリーングリッド電圧の変更は、最初に書いた100W改造キットの内容では、分圧用の抵抗2本が足りないためできないことになります。新・FT-101メンテナンスガイドでは、12BY7Aのスクリーングリッド電圧変更のために交換用に抵抗2本をあらかじめ準備するとありますが、どういうことでしょうか?100W改造キットの説明書でもあればわかるんでしょうが、残念ながら持っていないのでわかりません。

ここでしばし考えました。そもそも、ドライバー段が、FT-101ESではプレート電圧300V、スクリーングリッド電圧160Vだったものが、FT-101Eではプレート電圧は変わらず300V、スクリーングリッド電圧だけが200Vとなっているのは、要するにドライバー段出力を上げて終段の利得を少しでも抑えよう、ということなのではないかと思いました。真空管のことはよくわかりませんが。というわけで、まあこのドライバーの出力はそのままでもまあいいか、と思い、ここは手を入れないことにしました。正しいのかなぁ。

もう一つ分からなかったことは、新・FT-101メンテナンスガイドによると100W改造に「6JS6Cのバイアス電源変更(REG UNIT)」という項目があり、REG UNITの裏面のジャンパ線を削除するとありますが、そのようなジャンパ線が見当たりません。どうもFT-101ESの最終型にはこのジャンパはなくて、バイアス調整用の半固定抵抗(VR1)で調整するだけのようです(想像)。なので、この変更もなしです。

2. 実際の改造

2-1. トランスのタップ変更

まずは裏蓋を開けてよーく観察しました。非常に大きなケミコンが2本ど真ん中の後方に突っ立っていますが、これが平滑用のコンデンサC77とC78です。いずれも100uF(500WV)です。FT-101ESではこの2本のコンデンサを短絡する形でジャンパされているはずですが、ピンセットでビニール線を1本づつ行き先をたどると、、、なんと、不必要に長い赤いビニール線が2つのコンデンサを接続しているのを発見しました。つまりこれは、一方の接続を切って、電源トランスの0Vのタップまで繋がる長さになっているということです。これは分かりやすい!!


というわけで、2つの平滑用コンデンサを接続しているビニール線を切断して電源トランスの0Vタップへ接続しました。ここの配線変更は電源コネクタ(J9)があると非常にやりにいのですが、新・FT-101メンテナンスガイドに書かれている通り、このコネクタを取り付けている4つのビスを外して、コネクタごと上へずらすと、あまり大変ではないです。次に0Vのタップに繋がっている赤白のビニール線を外して240Vの何も繋がっていないタップへハンダ付けします。(実際の作業は逆で、(1)まず0Vタップへ接続されている整流ブリッジに繋がる赤白のビニール線を外す (2)平滑用コンデンサに繋がっている赤いビニール線を0Vのタップへハンダ付けする (3)先に外した赤白のビニール線を240Vのタップへハンダ付けする、という順序で作業しました)


2-2. 6JS6C周りの変更

6JS6C周りの変更はスクリーングリッド分圧用抵抗R58(8.2kΩ)を撤去することと、R57(5.1kΩ)をR14(100Ω)へ変更することです。R57の変更はしかしながら今回はやりませんでした。なぜかというと、新・FT-101メンテナンスガイドの50W改造の下りには、先ほど引用した文章の先に次のように書かれていたからです。
そのため出力は50Wどころか80Wも出るFT-101もある。(中略)とはいっても6JS6Cにとっては最大限度に近い使い方になるので、R14の100Ωを大きくして、。6JS6Cの増幅率を下げてやるわけだ。実際は真空管のバラツキによって様々なので、5〜10kΩの範囲でカット&トライをしてみよう
この文章を読むと、そもそも通常の100W改造でもここを100Ωにすると100W以上出るとも読めますが、つまり、ここの抵抗を100W改造通り素直に100Ωにすると出力が出すぎてしまう可能性がある言っているようです。今回の目的はあくまでも50W出力を目指す(それ以上は必要ない)ので、ここの抵抗はとりあえずオリジナルのFT-101の5.1kΩのままとしました。

3. 調整

3-1. 最初の調整

さて、改修作業はここまでで、早速調整に入りました。まずは、念のために6JS6Cと12BY7Aを外します。そしてAC電源コネクタを接続して電源を入れます。この状態で6JS6Cのプレートキャップに600V、12BY7Aのプレート端子(7)に300Vが来ていることを確認しました。実測では6JS6Cのプレート電圧は740V程度、12BY7のプレート電圧は340V位でした。次に、スクリーングリッド電圧を確認しました。6JS6Cも12BY7Aもともに160Vのはずですが、実測では両方とも174V程度でした(6JS6Cは3ピン、12BY7Aは8ピン)。まあこんなもんかな。

そこで先に外した真空管2本を再度挿入し、まずは恐る恐る電源スイッチを投入しました。しばらく様子を見ましたが、何もおきません。問題ないようです。それでさらに、ヒータースイッチをONにしました。すると、しばらくすると、ピキ、ピキという異音が真空管方面から、、同時にプチプチと受信ノイズが聞こえてきます。と思ったら突然(受信状態にもかかわらず)メータが振り切れてスピーカーからブーンという音がします。あわてて電源を切りました。気を取り直してもう一度同じことをすると、矢張り同じようにヒータスイッチを入れてしばらくすると、プチプチとノイズが入り、その後ブーンという音と共にSメータが振り切れます。

これはどこかおかしい、と思いよく考えましたが、どこにも改造間違いは心当たりはありません。ところが、6JS6Cの頭部をよく観察すると、なんとプレートキャップがぐらぐらになって外れかかっています。600Vが放電するのを待って、注意深く6JS6Cを外すと、プレートキャップとガラス管との間の茶色い接着剤(?)がパラパラと落ちて、プレートキャップは外れてしまいました。どうやらお釈迦にしてしまったようです。

最初に改造の点検をするために、6JS6Cを外したときになんだかプレートキャップがぐらぐらするなぁと思ったのですが、あまり深く考えていませんでしたが、もともと外れかかっていたようです。


3-2. 6JS6Cの交換

たまたま手持ちにもずーと前にオークションで入手した別の東芝製の6JS6Cがあったので、早速そっちに差し替えました。こちらは(当然)プレートキャップがぐらぐらするようなことはありません。ところが、やはり受信状態でヒータスイッチをONにしてしばらく経つと、同じようにSメータが振れてブーンという音がします。よくわかりませんが発振しているのでしょうか?

結論から言うと、バイアス調整用のVRの位置が悪かったようです。最初はFT-101Eを使っていた状態のままにしていたのですが(丁度真ん中くらいの位置)、これを反時計方向に回しきった状態(おそらくバイアスが浅いか深いかどっちかの状態)にして、同じようにヒータスイッチを入れると、先ほどのような変な動作はなくなりました。やっぱり終段管が発振していたのでしょうか?

この状態で、周波数を29MHzにして中和を取るのが次のステップです(と思います)。中和が取れる位置は中和用のバリコンがFT-101ESは60度、FT-101Eは120度程度羽が重なったところ、という取説の記述を信じて120度程度重なったところで、ICの最小点と出力の最大点が合っているかどうか確認したところ、まったくずれています。どうも中和が取れるポイントは6JS6Cが1本の場合は60度というのが正しいようです。中和をとるという調整はやり方がいまいちよくわからなかったのですが、最終的にこれでいいだろうという場所は殆ど中和バリコンの羽が抜けかけたところになりました。これでいいんだろうか?

中和はよくわからなかったのですが、次にトラッキングの調整を行いました。これは取説によると、28MHz→21MHz→14MHz→3.5MHz→7MHz→1.9MHzという順序で行います。例の新・FT-101メンテナンスガイドには28MHz→21MHz→14MHz→3.5MHz→1.9MHz→7MHz→14MHz→21MHzの順序と書かれています。ここは取説どおり28MHz→21MHz→14MHz→3.5MHz→7MHz→1.9MHzで調整を行いました。

その結果、7MHzを除く全バンドで50W程度(60Wは出ないくらい)の出力が得られました。7MHzだけはバンド下端でどうしても40Wちょっとより大きくなりません。7.1MHzくらいになると50Wちょうどくらい出ます。これは、50Wに改造する前から7MHzだけは出力が弱かったので、改造に失敗したことが原因というわけではなさそうです。ちなみに改造前はトラッキング調整をかなり緻密に行った後は、7MHz以外は20W程度か少し少ないくらいだったのに対して、7MHzだけは12,3Wより高くはどうしてもなりませんでした。普通は高い周波数つまり28MHzあたりで出力が出なくなるようですが、まあ28MHzでも60W近く出るので、少なくとも真空管とその周辺には不具合なさそうな感じがします。


3-3. 最終調整

ところで、この「7MHzだけ出力が少ない」という症状は新・FT-101メンテナンスガイドに記述があり(P105)、トラッキング調整用基板(PB-1187A)にあるL33の調整ズレが原因とあります。このL33ですが、トラッキング調整時に7MHzのみ、7.15MHzで送信出力が最大になるようにL33のコアを調整する、とあります。ただこのコアがなんだかふにゃふにゃしていて感触がよくないのと、送信出力のピーク位置がなんだかずいぶんブロードな感じがしていました。では、何のためにコイルが7MHzの時だけ必要なのでしょうか?回路図を追ってみると、12BY7Aのドライバの前段に入ったトラップ回路のようです。

もうひとつ怪しいのは中央後方の下側にあるTC30とL32の6.36MHzトラップ回路です。6.36MHzはキャリア周波数の3.18MHzの倍ですから、キャリア漏れを防ぐためのものと思われます。この回路はスプリアス低減のためにあり、調整方法を含めて新・FT-101メンテナンスガイドのP82に記述があります。これが7MHz帯の下端に近いのでこの影響でしょうか?調整の方法は10mBバンドで28.16MHzをモニター受信機で受信しながらFT-101を送信状態にしてスプリアスの漏洩電力がもっとも少なくなりように調整するとあります。結構このトリマーの調整もクリティカルでしたが、指示通りにスプリアスが最も少なくなるようにしました。ただ、この状態でも7MHzで若干出力が弱い、という状態に変化はありませんでした

FT-101にはドライバアンプ出力(RF-OUT)があり、この出力は本来トランスバータに接続するものなのですが、これをQRPパワーメータで計測してみると、バンドによりずいぶんバラツキがあります。周波数が高いバンド(21MHzや28MHz)ではかなり強い出力が観測されます(1W弱程度か?)が、3.5MHzや7MHzでは100mW以下です。最初7MHzの出力が弱いのはドライバ段の出力不足かとも考えましたが、3.5MHzは7MHzよりもドライバ出力がずっと弱いのに最終段ではちゃんと50W以上出ています。したがって、ドライバ出力が弱いせいで7MHzの出力が弱いということは言えないことがわかりました。おそらく(想像ですが)周波数が高くなるにつ入れて最終段の利得が下がってくるので、それに応じてドライバ段出力を周波数が高いほど大きくなるように設計されているのではないでしょうか?これ以上はちょっと難しすぎでどうにかする自信がありません。もう一台別のFT-101が入手できれば比較もできるのでしょうが。。。

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